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アスリートライフスタイル

スペシャルインタビュー▼ 動画の内容をインタビュー記事でさらに詳しく!

水泳[パラリンピック] 鈴木孝幸選手インタビュー

気負い過ぎず、その時々の自分なりのベストを尽くす。そこからうまれた結果やチャンスをさらに活かすことで、競技も仕事も次のステージが拓ける
鈴木孝幸

2004年アテネパラリンピックから4大会連続出場を果たし、これまで金1、銀1、銅3と計5つのメダルを獲得している水泳・鈴木孝幸選手。競技の他に仕事や海外留学など様々なことに同時に取り組みながらも高パフォーマンスを維持できた理由とは? 鈴木孝幸選手が築いてきたアスリートライフスタイルに迫ります。

「できる限りのベスト」を尽くす。ベストを尽くすことにこだわらない。

―アスリートにとって、本番で力を発揮するためには充実した練習が重要だと思いますが、そのために普段から心がけていることはありますか?

鈴木まずは、自分が置かれた環境の中で自分ができる限りのベストを尽くす、ということを一番に心がけています。あとは、できなかったことについてはあまり考えないようにしています。そのことばかりを考えてしまうと、前に進めなくなってしまいますので。

ノートに書き留める「日々の自分」。重要視し過ぎずヒントの一つに。

―日々の練習の中で、活用しているツールはありますか?

鈴木気づいたことがあれば、どんなことでもノートに書き留めておくようにしています。練習で自分がどうだったかということはもちろんですが、練習以外の、例えば練習に行くまでに何をしたかだとか、食事や睡眠のことについても書いています。そういうことも含めて体に影響して(最終的にパフォーマンスに現れて)くることなので、その時の自分がどういう状態だったかを把握するようにしています。

―ノートに書き留めておくことのメリットとは何でしょうか?

鈴木やはり人間の記憶というのは曖昧なので、ノートに書き留めておくことで正確に振り返ることができるのかなと。ただ、あまりそれにとらわれすぎるというのも良くないと思うので、僕はヒントの一つとして見るようにしています。

二足のわらじは新たなモチベーションの獲得につながる。
仕事をしてきたからこそ得られた「一般常識」と「応援の輪」。

―競技を続けられながらも、大学に進学した目的は何だったのでしょうか?

鈴木教員になりたかったことですとか、水泳以外にも目的があったので、そのために大学にもしっかり通いたいと思い、早稲田大学に進学しました。 ただ、先輩である河合純一さんのように教員をしながらパラリンピックにも出るという真似はできないと痛感しまして…。もし教員をやるなら、当時の環境では両立するのは難しいと思いましたね。

―最近では競技に専念する選手が多くなってきている中、鈴木選手は競技だけでなく、仕事も大事にしてこられました。その理由は何でしょうか?

鈴木私が就職した頃は、仕事の時間を短くしてトレーニングするというパラリンピック選手もまだいなかったですし、ましてや完全にプロでやるということはとても考えられない時代でした。だから必然的に仕事と競技とのバランスをうまく取ることが大切だと考えていました。

―パラアスリートを取り巻く環境も条件も現在とは違う中で必然的だったとはいえ、きちんと仕事も大事にしてきて良かったと思う点はどこでしょうか?

鈴木アスリートというのは特殊な環境にあると思うのです。そうすると、なかなか世の中の常識というものが見えなかったりするので、それを理解するのに、仕事の場というのは大事だったなと思います。やはりそこをおさえておかないと常識外れな行動や発言をしかねないと思うので、社会の一員として企業や組織の中で仕事をしてきて良かったです。
それと、やっぱり応援してくれる人が増えたことですね。ゴールドウインは、入社当初から私の水泳活動にとても理解を示してくれましたし、当時ほとんど他ではなかったような時短勤務というかたちにもしていただき、仕事をしながらしっかりとトレーニングができる環境をつくってくれました。それでも、仕事と競技との両立は予想以上に大変でした。仕事の後にトレーニングをして帰ると、夜9時をまわることもありました。以前は応援してくれるのは家族や友人くらいだったのが、今は、会社の皆さんからも声をかけていただくようになり、それが自分にとってとても大きな力になっています。例えば、会社で「今日も頑張ってね」と言われると、その日のトレーニングの活力になったりします。こうしたことも、仕事をしてきたからこそのものだな、と感じています。

英国ではパラ選手ではなく一アスリート。
日本との様々な違いが視野を広げさせてくれ、レベルアップへとつながった。

―2013年から練習拠点を英国に移されました。なぜ英国だったのでしょうか?

鈴木英国に最初に行くきっかけになったのは、私から会社に1年間の留学をお願いしました。次のパラリンピックに向けて環境を変えたいと思っていたためです。 留学中に今所属している大学からオファーがあったため、会社に許可を頂いて留学期間を延長することになりました。チャンスが巡ってきたと思いました。

―英国での新たな発見はありましたか?

鈴木英国ではやはり2012年にロンドンパラリンピックが開催されたことで、パラリンピックへの意識が変わったのだなという印象が強いですね。パラリンピック選手を一アスリートとして見てくれていますし、オリンピックと同じように大きな期待を持ってくれているなと感じています。
それから、おそらく日本ではインカレにあたるような大学の大会に、障がいのある選手も一緒に出場していたのがすごく印象的でした。そのようなことは、日本ではないことなので、すごく興味深い試みだと思いました。

―ご自身の水泳に関して、変化を感じていることはありますか?

鈴木トレーニングや練習の組み立て方が日本と英国とでは大きく違っていて、「こういうやり方もあるのだな」と視野を広げさせてもらっていますし、自分にとっていい刺激になっているなと感じています。例えば、私は両脚が欠損しているので、なかなか水中で推進力を得ることができないのです。そういう中で、筋力をつけてあまり体を大きくしてしまうと、重くなって沈んでしまうという不安があって、日本ではあまりアウターを鍛えるというようなことはしていませんでした。それが、英国に行ってからは、ジムでアウターを鍛えるようになったのですが、意外にしっかりと体が使えていて、特に自由形や背泳ぎのレベルアップにつながったと感じています。

主観的では気づかないこともある。客観視して次へのプロセスにつなげることが大事。

―4度のパラリンピックを経験し、選手としてはベテランの域に入りつつあると思いますが、以前との違いを感じていることはありますか?

鈴木20代前半の頃は、泳げば泳ぐほどタイムが伸びる時期があったり、一つの種目が伸びなくても他の種目で自己ベストが出せたりと、結果が何かしらあって、うまくできなくてくよくよしたりすることはあまりありませんでした。でも、今はうまくいかないことが増えてきて、そういう意味では気持ちの切り替えが大事になってきたなと思います。

―具体的に、どのようにして気持ちを切り替えているのでしょうか?

鈴木やはり客観的に自分を捉えることが大事かなと思っています。さまざまなデータ分析の結果や、コーチからのアドバイス、それから自分がビデオでレースを見た時の感想とか、そういったことで自分のことを客観視して、次へのプロセスを考えていくということが大事になるんじゃないかなと。そういう中で、新たにやりたいことが見つかれば、またモチベーションが上がりますし、次へのトレーニングにもつながっていくと思います。

―なぜ、ご自身を客観視することが大事なのでしょうか?

鈴木自分の主観的なものだけでは気づかない部分がデータなどでは見えたり、人からのアドバイスでパフォーマンスが向上することもありますので、客観的に自分を見るということはトレーニングに限らず必要なことだと思います。 あと、メンタル面をどういう風にコントロールしていくかというのは、より大きな舞台に立ったときに必要かなと思っているので、僕はあまり自分に期待をしないで地道にやっていこうという思いでいます。

時の流れに身を任せつつも、チャンスにはしっかり備える。
同時進行で得た経験と備えは次の夢をかなえる力になる。

―今後のビジョンについては、どのように考えていますか?

鈴木アスリートを引退したときに、何らかのかたちでパラリンピックや自分がやってきた水泳っていうものに関わっていきたいなとは思っています。今英国で学んでいるスポーツマネジメントは今勤めている企業にも活かせますし、今後のパラリンピックに関わることでも使えるものなので、すごく良いチャンスだったなと思っています。これをしっかりと学習して、これからの自分に還元していくというのは、まず水泳以外の部分で一番かなと思っています。どういう事なら自分が一番貢献できるのかということは考えていますね。 あとは、時の流れに身を任せていこうと(笑)チャンスがあったときにそれをつかめるような準備をしていこうとは思っています。

―これから世界を目指そうとしているアスリートたちに対して、アドバイスやメッセージをお願いします。

鈴木まずは、英語はしっかりと勉強した方がいいと思います。私自身、初めてアテネパラリンピックに出場した時から、大会が終わるたびにいつも「今度こそ英語を勉強しなければ」と思っていました。海外の選手たちが他国のコーチとコミュニケーションをとって色々な情報を得ているのを見て、自分もそういうふうにしていきたいと思っていたのです。
実際、テレビに出るようなトップ選手たちは、ほとんど英語が話せて、きちんと自分の意見を発信しています。やはり世界に対して発言できないというのは、トップアスリートとしての資質に欠けると思いますので、語学はこれからますます求められるのではないかと思います。

鈴木孝幸

鈴木 孝幸 選手

早稲田大学教育学部卒業。
2009年に株式会社ゴールドウイン入社。スピード事業部配属後、2016年4月からコーポレートコミュニケーション室へ配属。
小学校から水泳を習い始め、高校で本格的に水泳に取り組み、パラリンピックにアテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロの4大会連続で出場。北京、ロンドン2大会で競泳チーム主将を務める。北京大会では50m平泳ぎで金メダル、150m個人メドレーで銅メダルを獲得、ロンドン大会では、150m個人メドレー、50m平泳ぎで銅メダルを獲得した。リオデジャネイロ大会では150m個人メドレー、50m平泳ぎで4位入賞を果たした。
パラリンピアンとして2020年のオリンピック・パラリンピック招致のアンバサダーも務め、立候補ファイルを提出するなど招致活動に尽力した。

始めよう!アスリートライフスタイル!

鈴木選手のお話にもあったように、アスリートは「特殊な環境」に置かれます。
例えばトレーニングに集中するあまり、コミュニティが狭くなったり、社会と接する機会が少なくなりがちです。「井の中の蛙」になってしまうと、常識はずれな発言や行動につながりかねません。アスリートとして、そして社会の一員として客観的に自分を見つめることも大切です。これは「デュアルキャリア」という考え方にもつながります(デュアルキャリアについて詳しくはこちらをご覧ください)。
ぜひ一度、アスリートだけの自分でなく、社会に生きるひとりの人間としての夢や目標など「デュアルキャリア」について考えてみてください。

check 今回のインタビューで話していたのはこの部分!

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