日本版FTEM

Fの段階(ファウンデーション)

ファウンデーション 土台となる遊び・動作・スポーツ
タレント スポーツタレントの顕在化と育成及び実績
エリート シニア代表への選出と成功
マスタリー シニア代表での継続的な成功
Foundation:土台となる遊び・動作・スポーツ

「F」の段階は、遊びや運動、スポーツを通して様々な動作を獲得してから、特定の競技に専門化し、競技大会に参加するまでの、3つの段階(F1~F3)に分かれています。この段階での取組みは、「国際競技力の強化」や「身体活動/活動的な生活習慣」の基礎となります。

Fの段階では、保護者や兄弟、友人、教師、コーチ、クラブ等が育成の重要な役割を担っています。

下の様々なベストプラクティス(最良の方策)を意識して、アスリート育成パスウェイについて考えてみましょう。


F1基本的動作の習得と習熟

Fの最初の段階「F1」は、運動遊びを始めたり、幅広い基本的な運動の動作(走跳投や道具の扱い)を習得する段階です。

F2動作の獲得と洗練

「F2」は、学校体育や多様なスポーツ経験を通して、F1で習得した基本的な運動の動作を、楽しみながら向上させ、改善する段階です。

F3スポーツ/競技大会への専念

「F3」は、スポーツに特化した練習や競技大会に参加する段階です。この段階では、発育発達に配慮した練習や競技大会が展開され、体力・運動能力の高い子どもからマスターズや市民ランナーなどの生涯スポーツの実践者が該当します。

Fの段階におけるベストプラクティス

基本的動作の習得 Fundamental movement skills(FMS)からFoundational movement skillsという新しい概念が求められている。

Foundational movement skills(基本的動作)は、従来の運動様式(Fundamental movement skills [走跳投等]) に加え、スキル(自重スクワット、サイクリング、水泳の泳法等)の要素を含んでいることから、生涯にわたる身体活動への参加が促され、継続的に発達できる可能性のある運動様式である。例えば、ボールのドリブル、ボールのキャッチ、サイクリング、自由形の泳法、疾走、ホッピング、垂直跳び、キック、ジャンプ、ランジ、片手打ち、オーバースロー、オーバーヘッドプレス、腕立て、ランニング、スケーティング、スキップ、スライド、スクワット、立ち泳ぎ、両手打ち、アンダースロー等が挙げられる。
Hulteenら, 2018外部サイトへ移動します
一連の運動形態の調整は、意図的な動作の遂行に不可欠であり、平衡・移動・操作系などの幅広い基本的動作の習得が中心である。

KTK(Körperkoordinations Test für Kinder)テストは、コーディネーション(調整力)の中でも主に後方歩行、横跳び、横方向歩行、ホッピングの高さを推定する測定方法である。
Novakら, 2017外部サイトへ移動します
子ども(特に神経系の可塑性が高い未就学児)は、基本的動作や健康体力を増進するために、日々の身体活動を行うべきである。

児童期におけるコーディネーション(調整力)の習熟は、スポーツクラブや運動部活動等の組織的スポーツ参加の決め手として重要なだけでなく、スポーツタレント発掘の段階や児童期及び生涯にわたる健康に好影響を与える可能性がある。組織的スポーツ参加により、スキルや体力・運動能力の発達だけでなく、保護者、仲間、コーチ等から社会的な受容や支援を得られ、参加する楽しさが増すことも分かっている。

一般的な運動能力の測定にはKTKテストを実施する。
Vandorpeら, 2012外部サイトへ移動します
フィジカルリテラシー フィジカルリテラシーとは、具体化された経験を通して潜在力の発揮に必要な多面的なスキルの概念である。 Giblinら, 2014外部サイトへ移動します
フィジカルリテラシーは、身体活動、リズミカルなダンス、スポーツの様々な局面において、子どもが自信を持って運動を行い、基本的動作を習得させていくことと関連している。 Higgs, 2010外部サイトへ移動します
フィジカルリテラシーの高い個人は、全人的発達に向けた多様な身体活動能力を有している。その個人は、多様な運動形態の理解・伝達・実践・分析を通して動機と能力を巧みに発達させる。また、健康を増進するために有能で創造的で戦略的に幅広い動作を通して自信を持って身体活動を行うことができる。これらのスキルの獲得により、自分と他者との環境の中で、生涯にわたる健康的な活動を自ら選択することができる。 Mandigoら, 2009外部サイトへ移動します
フィジカルリテラシーは、フィットネス、運動行為、身体活動能力、社会心理的・認知的要因から構成される。カナダフィジカルリテラシー評価尺度(CAPL)で推定できる。 Tremblay & Lloyd, 2010外部サイトへ移動します
コーディネーション/調整力 発掘の段階で基本的動作やコーディネーション(調整力)等の能力が低い体操選手は、3年を超えた競技生活を継続できていないことが分かっている。 Pionら, 2015外部サイトへ移動します
コーディネーション(調整力)の獲得は、児童期における身体活動への参加を促進させる。

コーディネーション(調整力)の自己評価が高い子どもは、スポーツに参加し、スポーツを楽しみ、結果としてスポーツや身体活動を継続する可能性が高い。
Vandorpeら, 2012外部サイトへ移動します
学校体育 生涯にわたるスポーツや身体活動への関心を保ち続けることに対する学校体育の貢献を支持する研究はほぼない。 Green, 2012外部サイトへ移動します
学校体育のカリキュラムの多くは、フィジカルリテラシーに着目し、カナダフィジカルリテラシー評価尺度(CAPL)を用いたカリキュラムの評価方法を提唱している。 Tremblay & Lloyd, 2010外部サイトへ移動します
意図的な遊び 後の意図的な練習に長く専念するためにも、幼児期におけるスポーツ環境にとって不可欠な要素は以下の通りである:
・早期からの多様なスポーツ経験
・意図的な遊び
・子ども中心としたコーチと保護者
・遊び友だち
特に、意図的な遊びは、アスリートの長期的なスポーツ参加に対して正の影響を与える。
Côté & Vierimaa, 2014外部サイトへ移動します
スポーツへの参加 アスリート育成の理論モデルの一つである「スポーツ参加型育成(Developmental Model of Sports Participation; DMSP)モデル」が提唱されている。
DMSPモデルは、
①スポーツ経験を経たレクリエーションスポーツへの参加、
②スポーツ経験、競技種目の専門化、単一競技への特化を経た国際競技大会出場レベルの達成、
③早期専門化、単一競技への特化を経た国際競技大会出場レベルの達成、
という3つの異なる育成の軌跡を提示した理論モデルである。
Côté & Vierimaa, 2014外部サイトへ移動します
身体活動を広めるためには、質の高いスポーツ参加の機会を多く提供する必要がある。 Hardie Murphyら, 2016外部サイトへ移動します
スポーツ参加により、楽しさ、健康、体力、社会性の発達が増進される。 Vandorpeら, 2012外部サイトへ移動します
アスリート育成の理論モデルの一つである「積極的なユース年代の育成(Positive Youth Development; PYD)モデル」は、思春期のすべての若者が前向きに健全な育成を図ることができることを示している。PYDモデルの4つのCとしてCompetence(能力)、Confidence(自信)、Connection(仲間やコーチとの関係性)、Character(性格)で構成される尺度を提唱している。 Vierimaaら, 2012外部サイトへ移動します
障がい者スポーツへの参加 障がい者におけるスポーツ参加の促進要因・阻害要因は以下の通りである:
促進要因:競技大会、目標達成、社会的支援、コーチ
阻害要因:時間的制限、コスト、認知度の低さ、慢性障害
McLoughlinら, 2017外部サイトへ移動します
サンプリング※1/多様なスポーツ経験の推奨 サンプリングとは、一人が同時に複数のスポーツを経験することである。

早期からの多様なスポーツ経験は、スポーツ参加に対して長期的に正の影響を与える。
Côté & Vierimaa, 2014外部サイトへ移動します
メダリストは非メダリストと比べて、幼少期や思春期において専門競技よりも専門外競技のトレーニング量が多い。 Güllich, 2017外部サイトへ移動します
専門化 早期専門化の弊害として、
①基礎的スキルの欠如、
②社会心理的発達の阻害(例:社会的孤立)、
③健康障害やバーンアウト(燃え尽き症候群)、
④身体的発達の阻害(例:障害発生率の増加、特に膝)、
⑤ドロップアウト(主な原因は楽しさや喜びがなくなること)
が挙げられる。

早期からの多様なスポーツの経験は、早期専門化の弊害のリスクを軽減させ、競技力を向上させるための別の道すじである。
Bakerら, 2009外部サイトへ移動します
ほとんどのスポーツにおいて、早期専門化の恩恵を子どもが受けるという証拠はない。オーバーユースによる障害や早期からの専念化によるバーンアウト(燃え尽き症候群)につながる可能性がある。 LaPradeら, 2016外部サイトへ移動します
発育発達に即した身体的発達/トレーナビリティの最大化 ユースアスリートの選抜(非選抜)方法と個別評価は、成熟度や発育発達の影響を考慮する必要がある。 Cobleyら, 2014外部サイトへ移動します
「トレーナビリティ」を適切にトレーニングに適用できないことが、アスリート育成を阻害し、アスリートのパフォーマンス最大化に影響をもたらすという証拠はまだない。 Fordら, 2011外部サイトへ移動します
長期のアスリート育成を成功させるための10の柱
①長期的なアスリート育成パスウェイは、ユース年代の個別性が高く非直線的な発育発達の特徴を踏まえて構築することが必要である。
②年齢や能力、意欲を問わず、すべてのユース年代は、身体的・心理的・社会的ウェルビーイング(幸福感)を高めるための長期的な育成プログラムに参加することが必要である。
③すべてのユース年代に対して、主に運動能力と筋力の発達に主眼を置いた幼少期からの体力向上を奨励することが必要である。
④ユース年代の総合的な運動能力を向上させるためには、 長期的なアスリート育成パスウェイにおいて、多様なスポーツ経験(サンプリング)を奨励することが必要である。
⑤子どもの健康とウェルビーイングは、常に長期的な育成プログラムの理念の基軸でなければならない。
⑥長期的な育成プログラムへの継続的な参加を促すために、ユース年代における傷害リスクの低下に役立つ体力トレーニングを行う必要がある。
⑦長期的な育成プログラムでは、健康とスキルの両方に関連する体力を向上するためにすべてのユース年代に対して多様な運動様式を提供することが必要である。
⑧育成の実践者は、長期的な育成の中で適切なモニタリングと評価の方法を用いる必要がある。
⑨ユース年代の指導者は、長期的なアスリート育成を成功させるために、トレーニングプログラムを体系的に漸増化・個別化させることが必要である。
⑩有資格専門職の存在と適切な教育学的なアプローチは、長期的な育成プログラムの成功の礎となる。
Lloydら, 2016外部サイトへ移動します
アスリート育成の理論モデルの一つである「ユース育成の複合(Composite Youth Development; CYD)モデル」は、才能、心理社会的発達、身体的発達に関連したモデルである。 Lloydら, 2015外部サイトへ移動します
敏捷性 思春期前は、幼少期に正しい運動様式を身につけるためのFMS(Fundamental movement skills)の発達に主眼を置く。
思春期中は、方向転換能力の発達に注力する。
思春期後は、様々な刺激に対応する認知能力を発達させるための反応を伴う敏捷性トレーニングに重点を移すことが望ましい。
Lloydら, 2013外部サイトへ移動します
パワー 思春期前は、動きの習得と動作スピードに集中し、思春期中(13~15歳)はパワー発揮へ重点を置く。思春期後(>16歳)は、最大筋力とパワーのトレーニングに移行していく。 Meylanら, 2014外部サイトへ移動します
持久力 高強度インターバルトレーニングは、思春期における最高酸素摂取量(VO2peak)を高めるのに有効な手段である。 Armstrong & McNarry, 2016外部サイトへ移動します
社会心理的要因の発達 構造化されたアスリート育成パスウェイの構築と個人の心理的発達は、思春期におけるアスリートのドロップアウトを防ぎ、参加率を向上させるのに重要である。

しかし、タレント発掘・育成の環境や心理的影響についての研究は少ない。
Burgess & Naughton, 2010外部サイトへ移動します
スポーツは、一般的に社会性のある行動(向社会的行動)への関与と反社会的行動の回避につながる。 Vierimaaら, 2012外部サイトへ移動します
年齢別ゲーム形式(スポーツサイドゲーム等)や道具の活用 変則的なゲーム形式は、ゲームの技術的・戦術的な要素と体力トレーニングを組み合わせたものである。ユース年代のアスリートに対する技術的スキルや有酸素能力の発達だけでなく、ストレス下での意思決定や問題解決のスキルを高めることができる。 Croninら, 2017外部サイトへ移動します
スモールサイドゲームは、国際サッカー連盟(FIFA)が規定する11人制ゲームのコート(縦105 m×横68 m)より小さいコートを用いて少人数で行うゲーム形式のことである。 FIFAスモールサイドゲーム外部サイトへ移動します
プレイ&ステイは、国際テニス連盟(ITF)が2007年にテニスを普及するために開発した、ボールの弾みやコートの大きさを年齢別に3段階に分けたゲーム形式のことである。 ITFプレイ&ステイ外部サイトへ移動します
バイオバンディング※2 バイオバンディングとは、歴年齢ではなく、発育発達の段階に合わせてアスリートをグループ化する過程のことである。 Cummingら, 2017外部サイトへ移動します
アスリートのゼッケン番号を年齢順にすること(相対年齢化)で、ゲーム中の選抜におけるスカウトの偏見が少なくなった。 Mann & van Ginneken, 2017外部サイトへ移動します
アスリート育成のモデル、枠組み、指針 国際オリンピック委員会(IOC)は、「アスリート育成における個々の進歩をアスリート育成の実践者や関係者が受け入れ、アスリートの視点とニーズに適切に個別対応しながら、(育成の各段階における『ベストプラクティス』を活用できる)柔軟性があり、実行可能で根拠に基づいた包括的なアスリート育成の枠組みを適用する必要性」を謳っている。 Bergeronら, 2015外部サイトへ移動します
アスリート育成の理論モデルの一つである「スポーツ参加型育成(Developmental Model of Sports Participation; DMSP)モデル」は、育成段階が近接した主要な過程(意図的な遊び、意図的な練習、早期専門化、早期からの多様なスポーツ経験[サンプリング])と、その過程が起こっている環境(例:コーチ、仲間、保護者の役割)に焦点を当てることで、スポーツのねらい(競技力向上、スポーツ参加、個人的な発達)を統合することを前提としている。 Côté & Vierimaa, 2014外部サイトへ移動します
アスリート育成の理論モデルの一つである「長期競技者育成(Long Term Athlete Development; LTAD)モデル」は、アスリート育成のある一面しか説明しておらず、その基となる経験的証拠(特にフィジカルリテラシー、有酸素・無酸素能力)が欠如している。このモデルの適用が限定的なのは、その基になっているデータが疑わしい仮定と誤った方法論によるためである。 Fordら, 2011外部サイトへ移動します
これまでのアスリート育成の理論モデル(例:長期競技者育成モデルLTAD等)を踏まえた「FTEM(Foundation、Talent、Elite、Mastery)フレームワーク」がオーストラリアで2011年に開発され、2013年に国際的に公表されている。

包括的で多角的な観点からアスリート育成パスウェイの構成する主要な要因が4つある:
①アスリート要因(遺伝、生理学的特徴、形態、心理的特性、専門スキル、意図的なトレーニング及び競技大会への投資、社会的発達)
②環境要因(日常のトレーニング環境、コーチング、スポーツ医科学、地域社会、家族、学校・クラブ)
③システム要因(戦略的・政治的・理性的な意思決定)
④チャンスの要因(地域、政治・文化等)。
Gulbinら, 2013外部サイトへ移動します
アスリート育成の理論モデルの一つである「ユース年代の身体的発達(Youth Physical Development; YPD)モデル」は、思春期前に、主に筋力・FMS(Fundamental movement skills)・スピード・敏捷性のトレーニング、思春期に、専門スキル・パワー・筋肥大のトレーニングへの移行を提唱している。 Lloyd & Oliver, 2012外部サイトへ移動します
グラスルーツから国際競技大会での表彰台に至るまでのアスリート育成パスウェイの包括的な健全性を担保するためには、アスリート育成に関連する理論と実践を統合し、科学的根拠に基づいた長期的かつ献身的な手法を用いて表現し、効果的な実践を行い、アスリート育成の個別性と生き生きとした特性に呼応していく必要がある。 Weissensteiner, 2017外部サイトへ移動します
障がい者の身体活動の指針 科学的根拠に基づいた「質の高いパラスポーツ参加の枠組み」で提唱された12項目の指標は、パラスポーツ経験の質を評価する指標として活用できる可能性がある。

特にパラスポーツの経験は個別性が高いことが分かった。
Evansら, 2018外部サイトへ移動します

※1 サンプリング:一人が同時に複数のスポーツを経験すること。
※2 バイオバンディング:発育発達の個人差を考慮して、暦年齢でなく生物学的年齢でアスリートをグループ分けすること。