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スポーツ科学

「ケガなく賢くトレーニングを長く続けるコツ」
パスウェイ科学チーム・ハイパフォーマンススポーツセンター

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トレーニングによるケガを防ぐために

 2012年のロンドン大会(夏季)出場選手の11%、2014年のソチ大会(冬季)出場選手の12%が、オリンピック大会期間中においてケガをしていました。パフォーマンスを向上させるために日常のトレーニングは欠かせませんが、ケガに繋がらないよう十分に注意しなければなりません。
 トレーニングによるケガのリスクを抑えるためには、専門家や指導者の監視の下で適切な強度のトレーニングを実施することと、トレーニングと疲労回復(リカバリー)をセットで考えることが大切です 。

まずは、トレーニングの外的強度と内的強度を理解しよう

 まずは、トレーニング強度には、外的強度(何をどれくらいやっているか[例:走行距離、挙上重量、スプリントの数])と内的強度(本人にとってどれくらいきついか[例:心拍数])があることを理解しましょう。トレーニング強度を主観的に決めることで、無理のし過ぎを避け、ケガのリスクを抑えることができます。団体球技系スポーツなどにおいてはチーム全体で同じ客観的強度のトレーニングが決められていることが多いですが、ケガ予防の観点からも一人ひとりに合ったトレーニング強度を設定することをおすすめします。
 心拍数を計測せずに内的強度を定量化する簡便な方法としては、各セッション毎にRPE(トレーニングのきつさを「0[休息]」から「10[最大限にきつい]」まで主観的に評価した数値)と運動時間を乗算した「セッションRPE(sRPE)」があります。例えば、RPEが「5[きつい]」の運動を30分行った場合、そのセッションのsRPEは5×30=150となります。
 内的強度を把握する他の指標として、心拍数とトレーニング時間を乗算してトレーニング強度を定量化する「TRIMP」等を活用すると良いでしょう。
 日常のトレーニング強度の把握のため、トレーニング内容の記録(トレーニングログ)にTRIMPやsRPE等の内的強度も書き入れることで、ケガのリスクが少ないトレーニング計画を立てることにも繋がります。

”適度にキツい”トレーニングは、ケガのリスクを軽減させる

 ケガをしにくい身体をつくるためには、ある程度準備のできた段階で、”適度にキツい”高強度のトレーニングの導入が有効であることが分かっています。一方で、普段から低強度のトレーニングばかりやっていると、競技大会等における強度の高い運動へ対応できずにケガをする場合もあります。無理のしない範囲で段階的に高強度のトレーニングを実施するのがケガ予防の一つの方法です。

トレーニングの強度は、段階的に変えよう

 トレーニングの強度を急に上げるのはケガの大きな原因となります。ラグビー選手を対象とした研究では、一週間あたりのトレーニング強度を、元のトレーニング強度から15%以上上げるとケガのリスクが大きく増えることが分かっています。トレーニングの強度を変える際には、元のトレーニング強度の5%減から10%増の範囲で徐々に変えることでケガのリスクを減らすことができます。
 トレーニングの強度を上げすぎるだけでなく、下げすぎてもケガのリスクが上がるので注意しましょう(下記図1参照)。

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図1.普段のトレーニング強度からの変化率と、その後の傷害率の関係(Gabbett(2016)から改変)

疲労回復(リカバリー)は、トレーニングと同じくらい大切

 筋肉はトレーニングによって身体が受けたダメージや身体が感じる疲労から回復する過程で成長します。疲労回復が不十分なままトレーニングを繰り返すと、パフォーマンスの低下に繋がるだけでなく、疲労やダメージが蓄積してオーバートレーニングやケガ、カゼなどに繋がる可能性があります。
 1週間のトレーニング計画には必ず休息日を設け、トレーニングによるダメージが蓄積し続けないようにしましょう。競技大会の日程との兼ね合いにも注意する必要があります。また疲労回復を促進するために、リカバリーの基本である食事と睡眠はしっかり摂るようにしましょう。

ケガなく賢くトレーニングを継続するための実践的提言

 トレーニングによるケガのリスクを最小限に抑えるためには、「無理をし過ぎない適度にキツい」トレーニングを「休息を挟みながら」行うのがポイントです。疲労があればトレーニング計画を修正することもケガの防止に繋がります。ケガをしにくい身体を作るためには高強度のトレーニングをメニューに入れるのが有効ですが、トレーニングの強度を急に変えることはケガに繋がるので避けましょう。
 トレーニングの内的・外的強度と自分の疲労状態を常にチェックしながら、ケガなく賢くトレーニングを継続して行きましょう 。

TRIMPとは…TRAINING IMPULSEの略で、Eric Banisterによって提唱されたトレーニング強度の指標。例えば、一週間のトレーニング中の心拍数の平均が140[BPM]、トレーニングの時間の平均が3時間(180分)の場合、その週のTRIMPは140×180=25,200となります。