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アスリートライフスタイル

「デュアルキャリアという考え方」野口順子(日本スポーツ振興センター)

アイコンライフ
アスリートを取り巻く方々へ

キャリア形成プロセスが重なる時期(デュアルキャリア)に適切な支援を提供できるように…

「デュアルキャリア」とは、人生や生涯のひとつの軸を「キャリア」と捉え、そこにアスリートとしての「キャリア」というもうひとつの軸を加えた「二重性」を示す概念です。「アスリート」というキャリアは、「人」としての長い人生における一部分、一側面、一時期の期間限定的なキャリアととらえることができます。この期間には、同時に進学や卒業、強化育成カテゴリーにおけるステップアップなど、次の段階に進む重要な出来事が訪れる一方で、肉体面や精神面、社会面、経済面などで、困難や課題に直面すること、人間形成において基盤を構築する重要な時期であることも忘れてはなりません。アスリートの競技生活の変化を、学業や仕事、人生の成長段階での重要な出来事とうまく組み合わせて、個人の潜在能力を最大限に引き出し、「アスリート」として、また「人」としての自己実現を支援することが、「デュアルキャリア」支援における目的となります。
アスリートの「デュアルキャリア」を支えることは、アスリート自身の自己実現だけでなく、パフォーマンス強化を担うチームや競技団体にとっては潜在能力の高いアスリートの確保や離脱の防止、高校や大学といった教育機関にとっては成績や進学率の向上、社会や国にとっては良い人材の輩出やそれを通したスポーツの価値向上につながる可能性が高いと考えられています。そのため、近年ヨーロッパ連合をはじめ、世界中でその重要性が認知され、国の関与度の度合いや仕組みは異なりますが、アスリートの「デュアルキャリア」を支援するための制度づくりやプログラムが展開されています。
わが国においても、平成24年に策定されたスポーツ基本計画で初めて、「デュアルキャリア」について言及し、概念の理解促進を図るとともに、制度や支援体制を整備していく動きが国家レベルで始まりました。平成25年度に文部科学省の委託事業として日本スポーツ振興センターが実施した「デュアルキャリアに関する調査研究」の結果からは、アスリートの「デュアルキャリア」の過程において、特に保護者と指導者が、アスリートの競技継続、進学先の決定、将来の設計も含めたキャリア形成に対する影響力が大きいことが実証されました。つまり、保護者や指導者をはじめとするアスリートをとりまく全ての人々が、アスリートとしてのキャリア形成プロセスと人としてのキャリア形成プロセスが重なる時期(デュアルキャリア)に関する様々な要素や転換期を考慮し理解を深め、それぞれが適切なタイミングで適切な支援を提供できるように協力していくことが必要になります。
ただし、スポーツは自らの自発性のもとに参加するものです。そのため、どのような支援体制が整備されようとも、アスリート自身がこれを自覚し、自身の競技生活においても生涯の人生においても、アスリート自身の責任と自治において、必要なスキルや能力を養う努力が求められます。

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